2013年2月6日水曜日

やわらかい音楽 (2009/02/19)

野村誠さんが「キーボード・コレオグラフィー・コレクション」に関連して、「やわらかい楽譜」という文章を晶文社のウェブサイトに書いている。現代に生きる作曲家が考える音楽の新しいあり方。 

http://www.shobunsha.co.jp/column/nom1101.html 

僕はダンサーあるいは振付家として、今回のプロジェクトに関わって、いろんな発見をした。

参加者のKさんが、自作のキーボード太鼓を作ってきた。 
X個の太鼓→X本のバチ→X×Y本の木のパーツとそれをつなぐX×Y+α本の紐→X枚の鍵盤 
という構造になっていた。しっかりとした構造になっており、しっかり音も鳴った。でも、太鼓だったら、手を使ってバチで直接叩いた方が、いい音が鳴るだろうし、なんでわざわざ鍵盤を使う必要があるのだろうと疑問に思ったので、Kさんに聞いてみた。 

「そうなんですけど、鍵盤だと、目をつぶっても弾くことが出来たんです。ブラインドタッチで。」 

と答えてくれた。ワークショップの中で、「演奏者は目をつぶって、ダンサーは耳を塞いで・・・」というアプローチ16)があったのだ。ブラインドタッチと言えば、パソコンのキーボードが思い浮かぶが、ピアノもパソコンも10本の指が使える。キーボードだと、一度にたくさんの音が鳴らせる。 

なるほど。そしてまた、フォーラムの時に、ヒューさんが、 
「ピアノは、鍵盤を叩くと、それに反応して、いくつかの木のパーツが動き、その結果小さなハンマーが落下して、それが物理的に弦を叩いて、音が鳴るのです。そして、叩かれていない他の弦も振動するのです。電子ピアノとは、根本的に違うのです。」というような意味の発言をした。 

この原理は、浜松楽器博物館で見たことがある。ピアノが鳴る仕組みのわかる展示があった。すごく精巧に出来ているが、最後はハンマーだ。人が手や口を使って、叩いたり、吹いたり、擦ったり、揺らしたりして、直接音のを鳴らすのとはちょっと異なるし、バチや弓で演奏するのとも微妙に異なる。また、電子楽器とももちろん異なる。ピアニストは非常に繊細なテクニックを使うのに、最後はハンマーに預けちゃうのだ。 

振り子奏法をしている時、手がゆっくりと柔らかく鍵盤にあたると、音が鳴らない時がある。鍵盤は下がるのだが、ハンマーが反動を受けて弦を叩く閾値を超えずに、滑り落ちるように空振りしている状態なのだろう。ピアノだと、そうっと音が鳴らないように、鍵盤を押していくと、クッとひっかかる場所があるのが分かる。しかし、電子ピアノだったら出来ないんじゃないかな。スイッチが入っちゃう。 

ハンマーが落ちて音が鳴るということは、誰が鳴らしても、割と近い音が鳴る。もちろん、一流のピアニストには、一音をよりよく鳴らすテクニックがあるだろう。しかし、インドのバンスリーや尺八なんかは、その一音を鳴らすのに何年もかかる。弦楽器も時間がかかりそうだ。まぁ、打楽器は、叩けば鳴るので、比較的初心者でも入りやすい。ガムランでもそうだ。初体験の日にでも、アンサンブルに参加できる。和太鼓だって、叩けば、音が鳴る。 

その他のピアノの特徴と言えば、鍵盤がたくさんあって、圧倒的に幅広い音域を持っている。木琴もそうだが、ピアノの方が木琴より大きな音が鳴る。ピアノは、昔はピアノ・フォルテと呼ばれていたそうだ。1台でもオーケストラと対決できる。それから、音色がリッチである。ピアノは、チェンバロやツィターやダルシマーといったバチやハンマーが弦を叩く楽器を起源としているのだろうが、より豊かで大きな音を鳴らすために、より硬い弦や弦を支えるボディやハンマーの仕組みが、テクノロジーとも結びついて、発達してきたのだろう。その結果、現在のピアノは、持ち運びできないくらい大きくて重くなって、高価になって、リッチな響きを持った楽器になったのだろう。 

そう考えると、ピアノとは、 
ブラインドタッチで一度にたくさんの音が鳴らせる。 
ハンマーが弦を叩いて物理的に音が鳴る。 
容易に音を鳴らすことが出来る。 
音域が広い。 
音が大きい。 
音色が豊か。 
持ち運びできないくらい大きくて重い。 
高価である。 
などという特徴があることが分かる。 

話は変わるが、 
僕はピアノを習ったことがない。ピアノ以外の習い事も何もしなかった。子供の頃は、ひたすら遊んでいた。野球やサッカーもやったけど。そんな僕にとって、ピアノは、バイエルみたいな教則本をやっていないと弾けない楽器、というイメージがあった。 

それでと言うわけではないのだが、大学に入って、ガムランに近づいた。ガムランは、大きくて、家具みたいで、お金持ちっぽい、あたりはピアノと似ているが、大半は打楽器なので、誰でも音を鳴らせるし、曲の構造が分かりやすいので、すぐにアンサンブルすることが出来た。もちろん中には難しい楽器もあるが・・・。 

ガムランの特徴は、 
叩けば音が鳴る 
頑丈(本当は繊細な楽器も多く、結構破損するが・・・) 
音階によって楽器が分かれているので、適当に弾いても曲になってしまう 
踊りやパフォーマンスと近い(ダンスしながら弾くガムランもある) 
音がリッチ(ゴンは50キロ近くあり、1音のパワーが深くてすごい) 
などなど 

そのガムランを使って、ジャワの伝統音楽や舞踊以外にも、この20年間いろんな試みをしてきた。最近では、演奏者が踊ったり、ダンスしたり、脚本を書いたり、作曲したりする「桃太郎」や、おそるべきパフォーマンス力を秘めた障害のある人とのコラボレーションである「さあ!トーマス」などを発表してきた。 

そして、今回はピアノ。子供たちのパフォーマンス力を元にピアノの新しい可能性を探る試み。すでに書いたように、試みは予想以上に成功した。そしてなにより、僕自身が一番驚いたのは、僕自身がピアノを弾けたということである。単に弾けたというだけでなく、いい動きをすればいい音が生まれるというのが直結して、実感できたことである。 

ピアノは、音域が広く、いろんな音階、スケールが同列に並んでいる。ガムランだったら、音階毎に違う楽器になっている。それで、普通は、ピアノを弾くには、教則本を使った長いレッスンを受ける必要があって、それを受けた人だけが触っていいんですよ、という先入観がある。でたらめに弾くと、音楽にならない。でも、本当にそうだろうか。でたらめってなんだろう。 

ピアノって、もっと可能性があるんじゃないか。1音が持つ力って、すごいんじゃないか。 

そんなことをこれからも探っていきたい。 

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